通り道 3
家の引き戸を開けると、キッチンの明かりが灯っている。
「いらっしゃい」
顔を上げた伯母が軽く手を振る。逆の手で扇子をあおいでいる。
「今日も蒸すわね。メモに書いてたかしら。エアコンが壊れてるのよ」
昔と同じように、伯母は目元で笑う。髪は短く整えられ、ピアスが耳元で揺れている。
「今日はお世話になります」
「そんな堅くなんないでよ。冷蔵庫に麦茶があるの。自分で注げるわね?」
そう言って伯母は椅子の背にもたれる。僕は麦茶を出してグラスに注ぎ、向かいの椅子に座る。
「ヒガシ君から聞いてるわよ。あなたに頼みごとをしてるって」伯母はそう言いながら、また扇子であおぐ。
「無理にやらなくていいのよ。東京まで来て、仕事なんてね。大人でも嫌よ」
「なんというか、ちょっと気になってはいます」僕がそう答えると、伯母はあおぐのを止めて、目を細める。
「子どもをそそのかすなんて、ヒガシ君もやるわね。あなた、すぐに動くタイプには見えないし」。伯母は立ち上がって、鞄を手に取る。
「私はこれから外。夜には戻るけど、好きにしてて」
「仕事ですか?」
「こっちでもいろいろ商売してんのよ。ヒガシくんも外で頭下げてくれてるし。私も頑張らないと」
伯母はパンプスを履きながら、こちらを振り返る。
「やってみたくなったら、とことんやってみなさい。でも中途半端はだめよ。書き手に失礼だから」
それだけ言って、伯母は手を振って出ていく。扉の閉まる音がして、急に静かになる。
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