通り道 6
重たい扉を開けると、鈴が転がるように鳴る。煙草混じりの冷たい空気が鼻の奥まで届く。店の照明は暗く、奥から笑い声が聞こえてくる。
「いらっしゃい」
カウンターから人の声がする。見た目からは、年齢も性別もわからない。
「あんた、今日は二人も連れてるのね」
「たまにはね」
伯母は眉を上げて肩をすくめる。
「そちらの新顔は?」その人が僕を見る。
「えーと、社長の身内で。まあ、ママに紹介するには若すぎるかな」
青年が言いながら、照れくさそうに笑う。
「こっち、お座んなさいな」
僕たちは並んで腰を下ろす。背筋のあたりから、ゆるやかな音楽が染み込んでくる。
「大人びた顔してるけど、お酒はダメね?」、ママと呼ばれた人が言う。
「15歳なんです」と僕は答える。
「まあ、場に酔ってもらいましょ」
ママは笑って僕のグラスに氷を入れ、ジンジャーエールを出してくれる。伯母にはカクテル、青年にはビールが出される。
照明はさらに落ち、店全体が暗みを増す。青年はジョッキを空け、二杯目を頼む。
会話はゆるやかに流れていく。グラスの氷が静かに沈んでいく。
「そういえば」青年が思い出したようにつぶやく。
「あのプログラム、誰が書いたんすか?」
伯母は、ほんのわずかに目を細める。「古い知り合いよ」とだけ言う。
「ずっと使ってるって、なかなか変わってるよなあ」。
彼は笑って言うが、ほとんど目は開いていない。
「誰かの言葉を、そのまま残しておくって、変かしら」
「それって、恋よ」カウンターの奥でママが軽やかに言う。冗談とも真剣ともつかない響きがある。
伯母は、静かにグラスを口元に運ぶ。「そういうものかもね」
青年は三杯目を飲み干し、カウンターに置く。
「ちゃんと見つけて、残してくれる人がいるってのは救いっすよね」。
彼は身体を傾ける。やがて深く息をつき、眠りに落ちる。
「この子もたまにはいいこと言うじゃない」とママが言う。
「でも、しがみついてちゃダメね。記憶とひとつになれたら、進むべきよ」
青年の寝息が、静かな店内に溶けていく。ママは氷を取りに奥へ引っ込む。
伯母はグラスを手にしたまま、少しだけ僕の方を向く。
「今日はありがとね。この子にも感謝しないと」。青年を見て言う。僕は何も言わずにうなずく。
伯母はグラスを見つめながら、続ける。
僕はカウンターの木目を見ている。
「これからどうするの?」と伯母は続ける。
「迷っています」と僕は返す。
「お母さんと同じね。何かが通ってないと、進めない」伯母はやさしく僕の目を見て言う。
「何を引き受けるべきか、探すのもいいんじゃない。それが何年かかったとしても」
視界の端で、掛け時計の秒針が静かに進んでいる。グラスの氷が溶けて、水面が少し上がる。僕はそのまま目を閉じる。
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